オーバーグリップに歴史あり。 往年の名プレーヤーがこぞって使い 爆発的な売上を記録したバボラ【VSグリップ】は もっとも手軽なチューンナップギアである!

じつはグリップテープの分野でもバボラは世界の先駆者的存在

テニス道具の中で、ブランド名をほとんど主張できないのがストリングとグリップテープですが、かつて往年の名プレーヤーたちがこぞって愛用していたストリングといえばバボラです。

いまやラケットブランドのイメージがきわめて色濃く焼き付いてしまっていますが、ナチュラルガットにおいて世界トップシェアを誇ったのはバボラであり、かつてバボラ社製のナチュラルガットを使用していたプロプレーヤーは、全プレーヤーのうち80%以上という、驚くべき使用率を記録しています。

そのナチュラルガットの話は別の機会に紹介するとして、今回、注目するのは『グリップテープ』のこと。じつはバボラは、グリップテープの世界でも世界の先進的リーダーであり、プロプレーヤーの大多数がバボラのナチュラルガット使用していた頃は、それとほぼ同じ数だけの選手がバボラ社のグリップテープを使っていたのです。
若きトッププレーヤーたちをはじめとして【グリプシー】*1や【VSグリップ】を使用するプレーヤーが非常に多かったのです。

今日では、使用ラケットメーカーからグリップテープが発売されていれば、そのブランドのものを使うことが慣習化されて(稀に別ブランドのものを使っているプレーヤーも)いますが、先の全米オープンで完全復活を見せつけたラファエル・ナダルは、ずっとバボラの【VSグリップ】を愛用しています。

彼にとってグリップテープは非常に重要で、手とラケットをつないでくれる重要なジョイントなのです。とても汗かきなナダルですが、彼が愛して止まない【VSグリップ】ですから、その性能に大きな信頼を置いていることは間違いありません。

今日では、ストリングの最高性能を引き出せるように、ほぼ1セット(ボールチェンジのタイミングで?)ごとにフレッシュなストリングを張ってあるラケットに持ち替えるナダルですが、それに応じてグリップテープもフレッシュな状態のものを使うことになります。それだけ手とラケットとのジョイント状態に気を遣うのが、世界の頂点に君臨するプロプレーヤーなのです。

昔は木が剥き出しだったグリップの進化!
木→天然皮革→シンセティックグリップ→グリップテープ

グリップの歴史を遡っていくと、なかなか面白いことがわかります。現在のテニスラケットには、ほとんど「シンセティックグリップ」が巻かれて販売されていますが、それ以前は「ナチュラルレザー」つまり天然皮革がグリップに巻かれていました。今でも「ナチュラルレザーの固さがいい」と、わざわざ巻き替えて使うプレーヤーも少なくありません。

木製のグリップ

ところがそれ以前、テニスラケットのグリップは、ラケットのシャフトの木が剥き出しでした。何も巻いてありません。昭和の戦前戦後の頃は、さすがに滑りすぎるということで、木製のグリップに縦の溝がぎっしり刻まれていました。これがせめてもの滑り止めです。

グリップテープの前身が使われ始めたのは、1980年代に入ってからのことです。最初はナチュラルレザーに包帯のような布テープを巻く選手が登場します。汗で濡れて、すぐにボロボロになってしまうため、ベンチに座るたびに巻き替えていました。

しばらくすると、ちょっと丈夫なガーゼ状の布に、粘着液を染み込ませたものが出現します。ただそれは、テニスラケット専用というわけではなく、野球のバットやゴルフクラブのグリップにも使えるものとして販売されていました。
そしてすぐにメッシュ状の不織布に、やはり粘着性の高い液が染み込んでいて、そのベタつきによってグリップが回されないようにするシステムだったわけですね。

そして現在のグリップテープのスタイルである「厚手の不織布基布にウレタンをコーティングした」ものが現われます。最初は厚手のドライタイプのものが注目されましたが、汗を吸ってくれるのはけっこうなのですが、それが溜まってしまってグチョグチョになり、しばらくすると汗の成分がニオうようになるのには弱りものでした。

ウェットタイプの元祖的存在が
日本で爆発的に売れたバボラ【グリプシー】〜【VSグリップ】

このように、初期のグリップテープはけっこう厚いため、グリップサイズが一回り大きくなってしまうのも難点でした。ですから、バボラ社製の【グリプシー Super Thin】が輸入販売されたときは、本当に嬉しかったのを覚えています。驚くほど薄くできていて、ドライタイプといいながら、手のひらへの吸い付き具合は、まるでウェットのよう。おそらく、最初の「セミウェット」だったような気がします。

以前のVSグリップ

グリップサイズの握り具合は、巻く前とほぼ変わらないし、手のひらに吸い付いてくれるフィーリングは、ちょっとくらいスウィートエリアを外れたインパクトでも、簡単にグリップが回されないようになり、ミスショットが格段に減ったのを覚えています。

天然レザーグリップの滑りやすさに悩んでいたプレーヤーにとって、バボラ【グリプシー】は、まさに「天の恵み」。もはや巻かずにプレーするなんて状態には戻ることができなくなりました。また、当時のテニス好きの中には、道具をいじるのが好きな連中も多く、「グリップテープを巻く」という作業が、自分のラケットを愛する行為に思えて、貧乏学生だったにもかかわらず、グリップテープだけは、よく巻き替えていました。

その後継モデルがバボラ【VSグリップ】と言っていいでしょう。時代は移り変わり、誰もが「グリップテープを巻くのがあたりまえ」となり、それを前提にしたグリップサイズ選びをするようになったため、【VSグリップ】は【グリプシー Super Thin】よりもちょっとだけ厚くなって耐久性を増し、バボラの新しい定番グリップテープとなったのです。

どうして「白い」グリップテープが人気なの?
清潔な印象が「握っていて気持ちいい」からかな

今日のテニスショップには、白いグリップテープが数多く並び、売れ行きがもっともいいのが「白」であることは間違いありません。しかし、当初のグリップテープは黒やブルーが多かったのです……というか、白いグリップテープなど存在しませんでした。

その理由は「すぐに汚れが目立つようになっちゃうだろう」というメーカーの考え方によるもので、バボラも同様、「白いグリップテープを作ってほしい」という日本からのオファーにも「NO」のひと言だったそうです。

でも我々日本人は「白」が好きです。白には「清潔さ」があり、汚れてしまうと失われてしまう「潔さ」があり、またそうしたところから「高貴・高潔さ」とも結びつくイメージを強く抱いています。日の丸の「純白に日輪」も、日本人のメンタリティをよく表現しているものですね。

世界が白いグリップテープに注目したのは、1990年代の前半で大活躍した名プレーヤーたちの活躍によってではないでしょうか。バボラのナチュラルガットの愛用者たちは、バボラ社製の白やブルーのグリップテープを使っていました。ただ後年には多くのプレーヤーたちが白いテープを巻くようになりました。

グリップテープをうまく使っていくためにも、白を選ぶのは「いいこと」と思います。なぜなら、その汚れ方でどのくらい使ってきたかがわかりますよね。
グリップテープは消耗品。使っていくうちに手のひらへの吸い付き感が低下してきます。ただプレーヤーは、連続的に使っていると、どれくらい性能的に劣化しているかには鈍感になりがちです。

その劣化具合を「汚れ」が表わしてくれるわけです。最初に言ったとおり、グリップは「手とラケットをつなぐ重要なジョイント部」であり、「打球情報を取得するセンサー」でもあります。

グリップの状態をフレッシュに保つことで、快適にプレーできるだけでなく、あなたのプレーパフォーマンスを高く保つことができます。オーバーグリップテープというのは、もしかしたら、とても手軽なアイテムであるいっぽうで、我々がもっとも気を遣わなくてはならないギアかもしれませんね。

*1

「んっ? 【グリプシー】って?」という方のために説明すると、グリップテープが注目され始めた時代、日本で販売されたウェットタイプテープの売上において驚くべき数字を叩き出した伝説のグリップテープ。
当時はまだ、グリップテープを巻くことを前提にラケットのグリップサイズを選ぶなどということはなかったため、元のグリップサイズを維持したい一般プレーヤーが多く、そこにドンピシャでハマったのが、薄くて丈夫なウェットタイプである【グリプシー】だったのだ。

babolat

Text by 松尾高司(KAI project)

まつお・たかし◎1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー