スピード系シューズの最先端。新素材アッパーが進化しさらに軽量×俊敏に磨きがかかって登場。【JET MACH II】の進化のしかたが……う〜ん、シブい!

高性能モデルの開発は、つねにギリギリの選択を迫られる世界
あらゆる性能が、高いレベルで調和し合って機能しなければならない

今回は、最初にちょっとカタい話をしようと思います。
高性能を目指す製品開発というのは、使う側が考えるほど、簡単なものではありません。製品というのは、仕上がりが肝心。何かの性能にズバ抜けていたとしても、別の性能が極端に低下していては価値を認められません。

できあがったときの全体的なバランスが取れていることを求められるのです。テニスシューズの場合、求められる性能は、ものすごく多く、多岐にわたります。

安全性、耐久性、屈曲性、通気性、グリップ性、スライド性、耐摩耗性、衝撃緩和性、反発性、安定性、軽量性……。使用目的や使用者のプレーアビリティによって、各性能のバランスを決定して各モデル別に設計されます。

もしも、なにか一つだけ画期的な技術進化があったために、そこだけを見て組み上げてしまうと、他の構造や性能に負担がのしかかり、トラブルを引き起こすことがあるのです。設計者が考えなければならないのは「シューズが組み上がったとき、それぞれがうまく調和して機能する」ということなのです。

とはいうものの、各製品に個性を与えるためには、性能バランスの方向性というものを定めねばなりません。
設計者たちがつねに頭を悩ますのは「相反的性能」……つまり、「衝撃緩和性vs反発性」「グリップ性vsスライド性」「屈曲性vs安定性」「クッション性vs安定性」「軽量性vs安定性」など、どちらかを進めれば、もういっぽうが退くという関係性。

意外と単純な動き(前へ進む動き)しか繰り返されないランニングシューズなどと違い、テニスシューズは、前後左右の全方向へ動かなければなりませんし、安定性もほしいし、軽量でもあってほしい……。
砂入り人工芝でガッチリ止まってほしいけど、止まりすぎても困る。
あらゆる競技の専用シューズの中で、テニスシューズは設計困難度においてトップクラスだと思います。

新しくなった【Babolat JET MACH II】は、そうした苦悩の波に翻弄されながらも、波濤を乗り切るための光を得て誕生しました。抱えた難局とは「軽量化vs安定性」の対立構造でした。

RPUアッパーからの脱却を図った「さきがけシューズ」
バボラ【ジェット】の最大メリットは、超軽量×高安定アッパー素材

この10年間、テニスシューズは「RPU(ラバーポリウレタン)製アッパー」の独壇場とされていました。【Babolat PROPULSE】にも使われてきた、アッパーの表面を覆う樹脂の「アレ」です。

それまでは、人工皮革製アッパーが主流で、RPU素材は安定性向上のためのベルトなどに使われるだけに留まっていました。ところが、RPU素材をメッシュ状にして、ナイロン生地と貼り合わせてから加熱立体成形するという技術が開拓されたことで、縫い目がなく、伸びが少ないアッパーを形成することができたのです。

それ以降、RPU素材が使われないシューズはほとんどないほどの隆盛を極めます。製造上も、安定性+軽量製という性能上も、たしかにメリットが大きかったのですが、ユーザーとしては、「なんかみーんな同じような靴になってしまって、テニスシューズの世界がつまらなくなった」という声が漏れ始めていました。

そこに登場したのが2015年に発表された【Babolat JET】で、脱RPUシューズの魁となったことで大きな話題となりました。一目見ただけで、これまでのテニスシューズと違うことがわかります。テニスシューズの新世界を切り拓いたのは【MATRYX】という複合繊維製のアッパー素材。ポリアミド(一般的にナイロンと呼ばれる)繊維で編み上げられたメッシュ素材に、ケブラーという、伸びが少なく、非常に堅牢なアラミド繊維が編み込まれた特殊なニット素材を、初めてテニスシューズに採用したのです。

このケブラーが編み込まれた部分は、伸びに対して非常に強靭で、強く踏み込んだときでも、天然皮革や人工皮革のように横に伸びて足が流れるということがありません。しかも、RPU樹脂を貼り合わせたアッパーよりも軽量に仕上げることができるのです。

ケブラー繊維は、ポリアミドメッシュの自由な位置に織り込むことができるため、縫い目も補強パーツの追加もなしで、アッパーの部分的補強が可能となり、設計自由度の高いアッパー素材が、縫い目のない1枚のワンピース設計することができたのです。

こうして【Babolat JET】は、進化停滞していたテニスシューズの世界に、明るい未来の光条で照らしたのです。

RPUアッパーからの脱却を図った「さきがけシューズ」
バボラ【ジェット】の最大メリットは、超軽量×高安定アッパー素材

【Babolat JET】は、一般プレーヤーからもトッププロからも、高い評価を受け続けてきましたが、2年を経て、あらゆる側面から研ぎ澄まされた性能が備えられることになります。
それがこの【Babolat JET MACH II】です。

ちょっと見ただけでは、その変化に気付かないほど、外観デザインは前モデルを踏襲していますが、じつは非常に多くの部分がブラッシュアップされています。注目すべきポイントは「軽量化」です。しかも、総合性能を少しも落とすことなく、軽量化と安定性能向上を実現しているところなど、じつになんとも「シブい」アップグレードなのです。

それでは、具体的にどこが進化したのか、列記してみましょう。

1.アッパーが強化された(安定性向上)【軽量化!】

MATRYX2.0従来の【MATRYX】アッパーは、横に踏み込んだときに大きく負荷のかかる前足部「拇指球〜小指球ライン」にケブラー繊維が集中的に配置されたが、新作では周辺部分との強度ギャップを少なくし、足への局部的ストレスを減らしながら、包み込むようにケブラーを配置した【MATRYX2.0】を採用。
さらに強靭なモノフィラメント繊維を、つま先から後足部まで4箇所にわけて均等に追加投入することで、アッパーの強度は全体的に大きく向上した。アッパーの安定性能向上により、ソールの軽量化を実現させた。

2.つま先~拇指球内側の耐摩耗補強を大幅強化(耐摩耗性向上)

左が新モデル、右が旧モデルつま先の内側は、サーフェスへ接地する機会が多く、摩耗が激しくなるため、従来モデルから配置していた耐摩耗RPU樹脂の硬度を向上させ、さらに厚さも増して、擦り切れを防止している。素材が厚く盛られたことで重量が増すが、他の部分での軽量化おかげで、実現した好例と言える。

3.ミッドソールシャンクをTPUから硬質EVAへ変更(安定性保持)【軽量化!】

左が新モデル、右が旧モデルソールの前足部と後足部とをつなぐ「シャンク」は、いまや競技系テニスシューズには必須パーツとなっているが、従来の重い「TPU素材」から、軽量な「硬質EVA素材」へ変更して、大幅な軽量化を図ったことで、従来の320gから、300gへと20gもの軽量化に成功した(サイズ27.0cmの場合)。「たった20gか」と思う方がいるかもしれないが、総合性能に遜色を与えずに20gも軽量化するというのは、至難の業なのである。

4.ヒールカウンターの強化(安定性向上)【軽量化!】

左が新モデル、右が旧モデル踵を支えるために非常に重要な役目を果たす「ヒールカウンター」だが、従来モデルでは、内部ヒールカウンターに加えて、外側に下半分ほどの樹脂補強を施していたが、その外側樹脂配置を削減し、内側ヒールカウンターをより強靭のものに変更にしたことで、軽量化を実現している。

5.新型コンプレッサー、KPRS-Xを搭載 (衝撃緩和性向上)

従来システムとの比較「コンプレッサー」はバボラシューズが使い続けてきた衝撃緩和システムだが、【Babolat JET MACH II】で刷新。従来は踵部の真下にあった緩和システムを、踵部後方縁に配置変更した。ここは、踵がサーフェスに最初に接触する部分であり、接触した瞬間から衝撃緩和システムを稼動させる目的で変更されたもの。さらにクッション材を「高品質EVA」に変更したことで、よりマイルドな接地感と、スムーズな体重移動が実現した。

6.アウトソールのリブの深さを0.5mm増す(グリップ性能向上)(耐摩耗性向上)

従来のアウトソールとの比較(スタッドの高さ)これは外見的にはほとんどわからないことだが、アウトソールに刻まれるソールパターンの溝が、従来よりも0.5mm深くなった。これには2つの目的がある。溝が0.5mm深くなったということは、逆に考えればリブ(盛り上がっている部分)が0.5mm高くなったということで、リブの粘りが増し、サーフェスへの喰い付き性能が向上した。また、リブの摩耗によって溝は浅くなっていくが、0.5mm(20%)高くなったことで、溝が浅くなるまでのグリップ力に関する性能的耐久性が向上した。

7.アッパーサイドのBABOLATのロゴが大きくなった

そして外観的な変更として、踵部に記されていた【Babolat】のロゴが、約1.5倍に大型化されて、アピール性が増した(笑)。

8.価格引き下げによって、多くの方に買ってもらいやすくなった(コストパフォーマンス向上)

第1弾モデルでは、【MATRYX】という特殊な素材を使用したことで、¥16,500と高価だったが、バボラ社の「少しでも多くの方に、新ジャンルの高機能テニスシューズを体感してもらいたい」という願いから、勉強して勉強して企業努力……¥14,900と約10%の値下げが実現した。

以上が【Babolat JET MACH II】の進化のあらましです。おそらく、今後のテニスシューズは、【Babolat JET】が切り拓いたニット系アッパーの方向へ追従するでしょう。しかし、他が追い付いた頃には【Babolat JET】はさらに先へ進んでいます。だからこそ「今なんです!」俊敏で軽快なフットワークを期待する、すべてのプレーヤーに体感してもらいたいテニスシューズ、それが【Babolat JET MACH II】です。

テニスシューズは「軽ければ軽いほどいい」ってわけじゃない

アスレティックシューズというのは、「軽くするだけなら、かなり軽く作れる」ところまで技術は進んでいる。しかしテニスシューズには期待性能が非常に多く、「軽ければ軽いほどいい」というわけにはいかない面がある。
各性能をそれなりに搭載すれば、それなりの重さになってしまうもの。逆に、極端に軽すぎるテニスシューズは、明らかにいずれかの性能において我慢しなければならない。
たとえば初級レベル向けのシューズでは、使用者が「強烈な踏み込みはしない」という想定の下、→「強度な安定性は求めない」→「軽量でフワフワしたクッション感でいい」という設定になる。
それとは対極にある「超競技志向のシューズ」は、「強く踏み込んでも横ブレしない安定性」が求められるため、ソールの屈曲性は「強靭な踏み込み」で適度に曲がる(曲がりすぎない)くらいがよく、シューズ内で足が横ズレしないような強靭なアッパーも必要となる。となると、どうしたって総合重量は増してしまうものなのだ。
軽量を旗印にデビューしたテニスシューズも、競技志向に対応すれば、徐々に重くなってしまっているというのが現実であり、プロの競技者が使用できて、進化しているのに軽量化が進んでいる【Babolat JET MACH II】は、きわめて希有な存在であり、価値高きテニスシューズといえるだろう。

babolat

Text by 松尾高司(KAI project)

まつお・たかし◎1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー