ナチュラルガットを使ったことありますか?シンセティックでは越えられない反発性能維持力の高さ。長く高性能を味わえるから、むしろ「お得」!

かつてほとんどのトッププロが使っていた
ナチュラルガットを知っていますか?

ナチュラルガットテニスショップヘ行くと、とてもたくさんのストリングが壁にかかって展示されていますが、一部、光の当たり方が違うエリアがあると思います。
というか、あきらかに雰囲気の違うパッケージと価格……。
それが「ナチュラルガット」の御威光です。
とても特別なんですが、「特別な人のためだけのもの」ではないんです。
現代テニスと呼ばれるものが誕生したのは140年ほど前ですが、ラケットに張られるストリングは、すべて動物の腸などを材料にして作られた「ナチュラルガット」であり、ほんの20年くらい前まで、世界のトッププロのほとんどがナチュラルガットを愛用していました。
また日本のプロたちは、「ナチュラルガットを使うのは、プロのステイタス」と誇りにしていました。
そして、その大多数がバボラ社のナチュラルガットを使っていたのですが、近年では、ナチュラルガットは「プロのためだけのもの」ではなく、プロプレイヤーとはまるで違うスタイルのプレーヤーにも注目されているのです。

みなさんはナチュラルガットを自分のラケットに張って、使ってみたことはありますか?
使用された方ならばわかっていただけると思いますが、ナチュラルガットは「とても高い反発性能」を持っています。
打球がよく飛んでくれるのです。
そして独特の「乾いて快適な打球音」と、瞬間的ではあるけれども「確実なホールド感」は、あらゆるシンセティックストリングが真似ようと目指しても、それを再現することは、いまだ叶いません。
テニスストリングを分類するときの、まず最初の分岐点が「ナチュラルガット」と「それ以外もの」とされ、機能性としても、希少性としても、やはり「特別」ではあるのです。

ナチュラルガットは「牛の腸」からできている。
天然素材だと、どうして反発性能が高いの?

かつてのトッププロたちにとって、ナチュラルガットはどうしても必要な「武器」の一つでした。
なぜなら、ナチュラルガットは重要な「パワー発生源」だからです。
高速打球を打ち合うプロテニスでは、プレーヤー自身のパワーに加えて、その武器にもパワーが必要でした。
70平方インチのフェイス面積しかなかったレギュラーウッド時代はもちろんのこと、カーボン化され、面が大きくなってからでも、トッププレーヤーは「相手より少しでも高速でパワフルな打球を打てるように」と、ナチュラルガットを使い続けてきました。

現代は、ラケットフレーム自体の反発性能が非常に高くなっているのに、テニスコートの広さは1平方インチも大きくなっていません。
そのため、トッププロは飛びを抑えるためにポリエステル系ストリングを愛用するようになりましたが、それでも自分のパワーを増強したいと考えるプレーヤーは、縦か横にナチュラルガットを組み合わせる「ハイブリッドストリンギング」を選んでいますね。

では、なぜナチュラルガットは反発性が高いのでしょう?
それはまさに「天然素材だけが持つ優れた伸縮性能」の賜物なのです。
ストリングはフレームに張られた状態ですでに、1本1本が20数キログラムもの力で引っ張り続けられています。
そしてボールが当たった瞬間、インパクトの力によって、ストリングはさらにギュンッと引き伸ばされ、それが縮んで元に戻る作用によってボールを強く弾き出すのです。

しかし、ストリングは「張られているだけの状態」にあるだけで、徐々に伸びてしまいます。
ですから、たとえ張り替えてから1度もボールを打たなくても、どんどんテンションは落ちてゆき、反発性能は低下してしまうのです。
ナチュラルガット以外のシンセティックストリングは、張られた直後から徐々に伸び始め、ある時期を越えると伸びきってしまって、それ以上、変化しなくなるのです。
それは、反発エネルギーの発生装置としての役割は消失し、「ただ張られているだけ」の状態。
「切れてはいない」というだけですね。
とくにポリエステル系ストリングは、一般的にテンションが低下するのが早いと言われ、ポリエステル系の魅力である「強靭な反発性能」を得るためには、短いスパンでの張り替えが求められます。

ところがナチュラルガットは、たしかに張ってからちょっとの間は伸びを感じますが、それ以降の低下の仕方がきわめて緩やかで、高い反発性能を、長期間にわたって維持することができます。
ということは、たとえ張り替えるときの対価は高くても、シンセティックストリングを2回・3回と張り替えることを考えれば、トータルでは安上がりだと思いませんか?

「高価だから使えない」って?
製造過程を知れば「安いくらい」。そしてじつは「お得」!

ナチュラルガットを薦めると「そんな高価な糸は必要ないよ」とおっしゃる方がとても多いのですが、安いシンセティックストリングを何度も張り替えるよりも、安定した反発性能を長期間に渡って提供してもらえるナチュラルガットのほうが、お買い得ではないでしょうか。

そもそも「高価だ!」などとおっしゃいますが、その製造工程を知れば、「まるで高くないし、30年間も、ほぼ同じ価格であることを考えれば、むしろ安くなっているんじゃないか!」と反論したくなります。
というのも、筆者は2000年に、フランス・リヨンのバボラ本社と、郊外のナチュラルガット工場を訪問し、素材の安定仕入れ、製造にかかる手間と時間の長さを、目の当りにしてきたからです。
牛の腸繊維を安定して得るために、契約牧場を厳選し、調達時間が最短となるように、いくつかある契約牧場の中心に製造工場を置くという徹底の仕方や、すべての原料に対して製造牧場を明らかにし、何かトラブルがあったときには、すぐに原因究明して対応することができる管理システム*1が整っていました。

シンセティックストリングの場合、1本分の製造にかかる時間は、複雑な構造のマルチフィラメントで、長くても1時間以内でしょうが、バボラのナチュラルガット1本が完成するまでには、なんと3カ月もの時間が必要となるのです。
つまり、1本のナチュラルガットを作る製造時間は、シンセティックの2000倍以上ということになります。
しかも上質な材料確保に困難さがあり、プレーヤーの手元に届くナチュラルガットすべてに対して度重なる手作業を必要*2とし、シンセティックの数倍の性能的寿命があるということを知れば、あなたはきっと「安いっ!」と言いたくなるはずです。

「ナチュラルガットがいいのは知ってるけど、耐久性がねぇ……」と知ったかぶりする方もいますが、では「ストリングの耐久性とは何ですか?」という質問に、どう答えてくれるでしょう。
おそらく「そりゃ切れないことでしょ」と言うかと思いますが、「ストリングなんて切れなければ永遠に使えるものだ」とでもお考えですか?
ストリングの命は「反発性能」です。その性能が低下し、ほとんどなくなっている状態では、その命は尽きているということです。
ストリングは、性能的に生きていることが重要です。
激しいトップスピンを多用したり、ストリングに極端なストレスを与えるような打ち方でさえなければ、ナチュラルガットは、とても「長生き」だということを知ってください。

ナチュラルガットは上級者だけのものではない。
こんな方に「ぜひ使ってもらいたい」!

最初に述べたように、ナチュラルガットはかつて、プロや上級者のステイタス的な高級エキップメントでしたが、現在では、これを愛用する方々に大きな変化が見られます。
じつは「スイングスピードがゆっくりめで、反発パワーを必要とするプレーヤー」が、多く使い始めているのです。
もちろん「昔はガンガン打てたけど、年齢とともに打球パワーが低下してしまっている熟練プレーヤー」も多いですね。

「ラケットにパワーがほしいのだけれど、厚ラケのような高反発系フレームでは、あまりに飛びすぎて、コントロールしにくい。でもナチュラルガットによるパワーアップは適量だし、なにしろ打球感が素晴らしい!」と言うプレーヤーが、好んで使用するようになりました。
そうなんです!
ちょっとだけ乾いた打球感で、強くスイングしたときはグッとボールに喰い付いてくれるし、ボレーのようにほとんどスイングしないショットでも、面を合わせればスパーンッと決まってくれる爽快感。
事実、ハイブリッドにナチュラルガットを使うプロの多くが「ストロークではポリエステル系がオーバーパワーを抑えてくれるけれども、ボレーのときの決定力に欠けるから、ナチュラルガットを加える」と考えています。

それに、なんといっても素晴らしい打球音です。
現在のテニスから消えてしまったものの一つが、かつて「パコーンッ」と表現された打球音でしょう。
勝ちたくてテニスをする人も多いでしょうが、「気持ちよくテニスをしたい」として続けている方は、もっと多いはずです。

ストリングがよく切れて困る……というプレーヤー以外なら、長寿命反発性能を誇るナチュラルガットは、まさに「お買い得」だと思いませんか!

すぐに原因究明して対応することができる管理システム*1

バボラのナチュラルガットには、1本1本、すべてに製造番号が記されており、それを見れば、そのガットが「いつ」作られたものであり、「どの牧場から仕入れた原料」かを知ることができる。バボラ工場では、パッケージングする前に厳重な検品をするが、万が一にも世界中のどこかで不良が見つかったとしても、製造番号によって原因究明して対応することができる

手作業を必要*2

シンセティックストリングの製造では、素材(繊維)をマシンにセットすれば自動で作り上げてくれるが、バボラのナチュラルガット製造工場では、多くの手作業を必要とする。まず原料となる腸繊維の選別、それを必要な部分だけ帯状にカット、さらにそれを指でリボン状に割いていく。これには熟練した指の感触が必要とされ、手作業でなければなし得ない工程だ。それに薬品が加えられて長期間の熟成を経て、10数本のリボンを束ねて、非常にゆっくり時間をかけながら撚りをかけつつ乾燥させる。これらを管理するのは職人たちの目であり、さらに完成したナチュラルガット1本1本を、目視によってきめ細かくチェックし、本当に完全なものだけがパッケージされて出荷される。この価値が、いかなるものかを理解してほしい

babolat

Text by 松尾高司(KAI project)

まつお・たかし◎1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー